「アリー スター誕生(2018/ブラッドリー・クーパー)」音楽映画と見せかけたアル中映画だった
4度目のリメイクらしいが今までの作品はひとつも見ていない。
CMを見ただけである程度話の予想が付くタイプの映画だが評判がいいらしいというのと当初はイーストウッドが監督する予定だったというので興味が湧いて見に行く事にした。
CMやらテレビやらで見所をバンバン流すので、これ以上それらを観たら完全に興味を失ってしまいそうだったので公開日初日の朝一に観に行った。
音楽映画…と思わせておいてのアル中映画だった。
身近にアルコール中毒の知り合いはいないので、ベンアフレックはこんな感じなのかな…と思いながら終始鑑賞していた。
先日アメリカンスナイパーを観たからというのもあるのか、とにかくブラッドリークーパー周辺に漂う不穏な緊張感が凄まじかった。
とはいえ最後の最後に自分に手をかける以外は、DVすらしないめちゃくちゃ良い人だったが…
友人?の家でおもむろにキッチンに行き、引き出しを開けてペンチを探しているシーンで、「お?なんだなんだ自分の爪でも剥がすのか」と思ったら普通にギターの弦を使って婚約指輪を作るなんていう少女漫画みたいなことをしだしたので笑ってしまった
だって不穏なんだもん…
色々あって成功してガガはスターになる。仕方がないと思うが売れてからのアリーはガガにしか見えないので、序盤のすっぴんで歌うガガは(アリー頑張れ…)と思って観ていたが、売れてからバキバキメイクでクネクネ踊るアリーは(ガガだなぁ…)という印象しか受けず、なんだかちょっと冷めてしまった。
アリーが売れてからはどちらかというとブラッドリーがいつ拳銃自殺しないかという方に気を取られていた。それはアメリカンスナイパーか…
中盤…グラミー賞授賞式での失禁シーンがかなり衝撃的で、これブラッドリーは本当に失禁してるんじゃ…?と子供のような感想を抱いた。
ゲロではなく失禁というのがなんともみっともなくてやるせない気持ちを増幅させる。
ゲロの方がまだマシだ。
何故だろう…やはり失禁は局部の存在を意識させるからだろうか?
失禁した時にサッと自分のドレスでブラッドリーの下半身を隠してあげるガガがもう凄まじく惨めで可哀想だった。
こんなことのために着たドレスじゃないのに…。
ていうかあのマネージャーが力づくでステージから引きずり下ろせば良かったのにね
最終的にはこの失禁事件をキッカケにして元々崩していた身がボロボロに崩れていって酷いこと言われたりもあってブラッドリーは自殺する。
自殺した時にちょっとだけホラーっぽい演出のカットが1カットだけ挟まれて面白かった。(アメリカンスナイパーで、ライバルを射殺するシーンで急に007みたいな演出が挟まった時のことを思い出した)
正直失禁事件をきっかけにして自殺しているようにしか見えなかったのはちょっと…という気がしないでもない。
そこはやはり聴覚が…とか耳鳴りを抑えるための薬と酒でオーバードーズして…というようなやむを得ない理由の方がまだ納得できる気がした。
失禁くらいならよくプロレスラーもしているし(?)、そこはなんとか持ち直した上でそれでも乗り越えられない絶望みたいなものに打ちひしがれて死んでいってほしかった。
ラストのブラッドリー追悼コンサートでのガガのパフォーマンス。
良曲を高らかに歌い上げるのだがその歌い上げ方がどうにも見事すぎて、「もう完全に立ち直ってます!」というオーラがバリバリ出ていた。
個人的にはちょっと早すぎないか…という気がして気持ちが乗れなかった。
映画内では時間経過があるのかもしれないけどこちらとしては数分しか経ってないわけで…。
ここはせめて、歌い出すものの途中で声が詰まって歌えなくなったガガ…からブラッドリーがピアノで歌う例のカットに行くくらいの流れで良かった気がする。
とにかく中盤からアリーはただのガガになってしまったので、最後の最後で一人の人間として歌を歌おうとする、歌えない歌を歌おうとする人間的な葛藤…みたいなドラマが欲しかった。
この映画におけるガガもブラッドリーも、歌も上手いしパフォーマンスも完璧なのだがそれらが作劇と上手く噛み合っていたかというとそこまでではない…という印象。
あと一歩踏み込んで、ミュージシャンの心の闇やステージと日常の光と陰…的なドラマを見せて欲しかった。
「ロブスター(2016/ヨルゴス・ランティモス)」面白いけどもう少し血生臭いリアルも欲しい
原題:The Lobster
製作国:ギリシャ・フランス・アイルランド・オランダ・イギリス
Netflixにて鑑賞。
ヨルゴス・ランティモス×コリン・ファレルのコンビはこの後「聖なる鹿殺し」に続く。
寝転がりながらスマホで見ていたのだが(僕のネトフリ鑑賞スタイルは大体がこれ)、何度も何度も寝落ちしてしまった。
それでも最後まで見る事が出来たのはやはり設定の妙。とにかく奇妙で不思議な世界観。
SF的な設定を画面では表現せずに会話や場所の設定で表現するのは先日見た「太陽(2016/入江悠)」を思い出した。
こういう作品は、うまくいけば観客の想像力を掻き立て映画の外側の世界を想像させたり残虐性を浮かび上がらせたりできるはずだが二作品ともあと少しそこには辿り着けていないような気がした。僕の想像力が足りていないからかもしれないが。
特に中盤以降、レジスタンスの人々がお金を稼いだり食糧を調達したり下水とかそういうライフラインの問題がどうなっているのかがわからず、どうもリアリティを感じにくくなってしまった。
前半も前半でこのホテルだけで世界の秩序を守ってるのかとか、それともこういったホテルが世界中に大量に存在するのかとかそういう事も気になる。
設定がSFなので、ほんの少しの描写でいいのでその辺りのリアリティを感じさせてくれる描写が欲しかった。
また、ホテルで女を麻酔銃で打って動物にする部屋に入れるくだり(そもそも部屋に入れるだけで動物に変身するのかとかその辺りもフンワリしている)とか、リーダーが犬に食われる所とか、もう少し詳細に描写してくれた方が映画的なカタルシスは生まれただろうし、あまりにも画面が無機質なのでこの辺りで血なまぐささを感じさせて欲しかった。
邦画でリメイクなんかしたら結構面白くなるのでは?吉田恵輔監督とか、白石和彌監督とかで…
と言いつつ多分監督はそんなことには一切興味も描くつもりもないのはわかっている。
僕の好みの問題なのだ…
ラストに関しての解釈はこのブロガーさんが非常にわかりやすく記事にまとめてくださっている。
映画技法的に言っても恐らくこの解釈が正解な気がする。
映画「ロブスター」についての感想(主に結末について)|ささやか(シャルル) @sasayaka49|note(ノート)
https://note.mu/sasayaka49/n/n009c4d84d039
僕もやはり主人公の幼稚さが全編に渡って気になっていたので、逃げたと解釈している。
見ている間はリアリティがどうのとかもっと血を見せろよとか文句を言いつつも、見終わって数時間経つ未だにこの映画の事を悶々と考え続けているのでやはりこの映画は良い映画なんだろう。
この監督の他の作品も見てみたい。